【16】ガンジス河と火葬場
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ここはガンジス河。
沈みゆく太陽の中、
ボートはゆっくりと陸を離れた。
その瞬間、別世界へと切り離された感覚がした。
喧騒の世界から離脱していく感じ。
それもゆっくりと。
とてつもなく不思議な気持ちになった。
木のオールを両手に漕ぐ彼に、
「私も漕ぐ」と言うと、
「こっちは川の流れが逆だから、帰りね」と。
帰りにボートを漕ぐことになった。
しばらくすると、
不快なニオイが漂ってきた。
火葬場が近づいてきたのだ。
ガンジス河のほとりには火葬場がいくつかある。
亡くなった人はそこに運ばれ、焼かれるのだ。
そこでは、口を開けたおじいさんが焼かれるのを待っていた。
亡くなった人を見て感傷的になった私は、
「泣きそう・・」と呟いた。
「泣いたら天国に行けなくなるから、火葬されている時に人々は泣かない」
彼はこう言った。
「みんな生まれ変わりを信じていて、天国に行けないと生まれ変われない」
私の涙は完全に止まった。
関係のないただの旅行者が泣いたばかりに、
あのおじいさんが天国に行けなくなるのは嫌だと思ったから。
私は初めて、私の知らない、亡くなった人を見た。
そして、私は初めて、人間が焼かれた時のニオイを知った。
このニオイを、この先忘れないだろう。
「みんなここで焼かれるのが夢」
あとから彼がそう言っていた。
その言葉が何だか好きだった。
「死」がこんなに近くにある街はそうないだろう。
それでいて活気に溢れている。
「生」と「死」は真逆なのではなくて、隣り合わせなんだと知った。
帰りにボートを漕ぐと意気込んでいたが、
オールの重いこと!
水を掻くどころか、持ち上げるのも大変だった。
岸に着き、いつもの世界に戻って来た私たちは、
プジャと呼ばれるお祈りを横目にお店に戻った。
KingFisherというインドのビールを飲んで、
早めに就寝した。
ガンジス河に昇る朝日を見るために。